祈る

テセアラ編初期〜二度目のフウジ山岳

誰かが私に話しかける。

「コレット……疲れてないか?」

分からない。疲れていることと疲れていないことの区別がつかない。そして、コレットとは何を示しているのかがわからない。

また別の誰かが私に話しかけていた誰かの顔を覗き込む。

「またコレットと話してたの?」

「先生……まあな。でも、やっぱりダメみたいだ」

誰かが悲しそうに肩を落とす。なぜか私は、その様子を見ることに不思議な感情を抱く。

「テセアラになら絶対コレットを治せる保障があるとは限らないこと、わかっていて?」

「………でも、俺はここに来たこと後悔してないぜ。シルヴァラントにいるまま、コレットを見捨てるなんて絶対にしたくない。可能性があるならかけた方がいいだろ」

「あなたらしい考え方ね。………だけど」

後から来た誰かは言いにくそうに言葉を濁した。最初にいた誰かが先を促すように、後から来た誰かをじっと見つめる。その視線に気圧されるようにして、後から来た誰かは続けた。

「シルヴァラントに戻ってきたはきたで、コレットには……少し難しいかもしれないわ」

後から来た誰かが、私を見る。私はどういう意図かわからず不思議に思う。

「難しいって、どういうことだよ?」

「コレットが救われて、戻ってきても、いまだにシルヴァラントは衰退したまま……。コレットは世界再生に失敗した神子として、白い目で見られるかもしれないわ」

その言葉に、なぜか胸の奥へ不思議な感覚を覚える。痒くて、痛い。

最初にいた誰かが、私の感覚を代替するかのように、吠えるように怒鳴った。

「そんなの、俺が許すもんか! それに……世界を救う方法も探すんだろ。コレットも、二つの世界も、何も失われない方法を」

「そうね」

肯定的な言葉を言っているのに、後から来た誰かの表情は否定的な言葉を連想させる。なぜ、思うことと異なることを言うのだろう。

──唐突だった。最初にいた誰かが急にこちらへ向いたのだ。最初に話しかけられた時とは違う、力強くて、やはり形容しがたい眼光を放っていた。

「コレット!」

誰かは私の肩をつかんでから、また意味不明の言葉を叫ぶ。しかし、その言葉の意味はすぐに分かることになる。

「お前は神子じゃない、それ以前にコレットだ! 神子なんか知るか! 俺は、俺はコレットを守る。今度こそ、お前を守るからな!」

ずいぶん力がこもっていて、そのうえ早口だった。それなのに、私はすぐに言葉の内容を理解した。

──コレット──コレット──私の名前は、コレット。

後から来た誰かが、最初にいた誰かを見つめて、複雑な感情を微笑によって表している。複雑なうえ、私には理解できない感情も含まれてはいるだろうが、それでも、総じて少し嬉しそうではあった。

不思議な感覚がする。不思議な気分になる。

分からない。分からないがただ、私に何かを訴えようと、無垢な笑みを見せる目の前の誰かを見て、この笑顔がまた、あの悲しい顔にならなければいいと思った。ずっと、こういう風に笑っていればいいと思った。ただ、それだけを、祈る。

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