SIDE-L
「長いわよ、何でこんな長い間いなきゃいけないのよ!」
少女がわめきたてる。牢越しに少女のかなり声を聞き続けている看守は、いかにも嫌そうに耳をふさいだ。
「またそれか。姫神(きしん)様を冒涜するなんて、拷問にかけられて殺されても文句言えないんだからな。一か月の禁固で済むなんて、お前だけだ。それこそ姫神さまに感謝しなきゃいけないんじゃないのか」
投げやりに看守がいい、まだ唸り声を上げてこちらを見ている少女を一瞥してから、
「明日で終わりだろう。リーン、もう──なんだったけか? そうだ、姫神像に向かって暴言を吐くなんてことするなよ」
リーンに頷く様子はない。呆れたように看守は彼女を見つめ、その他には何も言わずに去っていった。
リーンは眉間にしわをいっぱいに寄せ、うなだれた。
──何が冒涜よ。何が姫神様よ。あんなのぱちもんじゃない!
さすがに心の中にとどめておいた。
この国の姫神信仰はおぞましいほどの物だ。ここらの囚人に聞かれでもしたら報復が怖い。
いや、ここらの囚人だけではない。世界のほとんどの人間が、姫神を信仰しているだろう。
散々苦しめられて、死ぬ間際になってさえ、姫神を尊び祈る者さえいる。
それだけ、姫神をけなすなどというのは、あり得ないことで、信じられないことで、許されないことなのだ。
全ての幸福は姫神のお陰であり、姫神に感謝すれば、至上の幸福が得られる。逆に、姫神に逆らうようなことがあれば、苦しみは免れられない──それは姫神自身が行っている報復ではなく、姫神の示す道が最大の成功の道、だから姫神はすべてを統一する慈愛の神だ、と、大まかだがこれが、姫神を信仰する「教団」の教えだ。
姫神は教団内だと、人を生き返らせたり、予言をしたりするということらしい。どの絵画にもとても美しい姿で描かれている。
くだらない、と思う。
姫神なんてものはいない。神なんて存在しない。
その人たちには、自分の父も含まれている。
リーンの父は、教団に所属する姫神教──と言っても他の宗教は教団の手によりほとんど滅ぼされたが──の副教団長で、リーンも後々、教団の修導女になる予定だ。
彼女はその父親のお陰で、神を冒涜しても半分もみ消される形で禁固刑ですんだのだ。
しかも、教団の深い息がかかった、というよりもはや管轄内の、牢というにはあまりに明るいまるで鉄棒で仕切られた個室のような場所で。
父親の外聞を守るやり方も嫌いだった。
その権力の恩恵を受けているのは自分だが、そもそも捕まる理由が理解できないので、リーンは兎にも角にも父親が嫌いだ。
姫神なんて嘘だ。リーンは信じて疑わない。
みんな、教団に踊らされているだけだ。信じて疑わない。
今日眠れば、明日にはここを出られる。
そうしたら、また、姫神をバッシングする方法を考えよう。
こんな、齢にして15の小娘の言うことなんて、だれも聞いちゃ、くれなかったんだけど。
リーンはため息を吐いた。