First 意味を知って如何するというのだ

SIDE-I

教会に刻まれた、女性を模した紋章を眺める。

そして、すぐ後ろにある、その美しい女性が微笑んでいる銅像と見比べる。

やはり、どちらも姫神を指しているのだろうか。いや、女とは限らないか。それでも、姫というぐらいなのだからやはり、女神として祭っているのだろう。

一か月前、この銅像に暴言を吐いて捕まった人がいたらしい。

すぐに教団兵に囲まれていたために目撃者は少ないらしいが、一部の噂によると、年端もいかない少女だったらしい。

この教団の完全支配の中にある世界でそんな行動を起こすなんて、なかなかに珍しい人間だ。

かくいう斎(いつき)も姫神を信仰していないとは言わないでも、熱心に敬っているわけではなかった。

この世界の人間が姫神を執拗なまでに信仰しているのは、親と教団からの強い教えが、今の代まで続いているからだ。

親が幸せそうに、「姫神様、姫神様」と声を上げる姿を見て、自分も幸せになるために姫神を敬おうという心理が植え付けられているんだろうな、と思っている。

斎の親も例によって教団に入って、修導士になっていた。

いつも斎の親は斎も修導士になるように何度も言っていて、斎自身もいつかはそうなるんだろうな、とぼんやり感じていた。

親にそう教えられても、斎は積極的に姫神を信仰する気になれず、かといって逆らおうとも思わない。

この世界の人間と、少女らしき逮捕者、どちらにも同情も合意もできない。

「斎、お前は姫神様のお陰で生まれてきたのだから、姫神様に感謝して、姫神様の望むとおり、人々のために尽くしなさい」

母親の口癖だった。

生んだのは、お母さんじゃないの。

そう思っていた。それだけだ。

幼少時の記憶はその事実が強く植え付けられ過ぎて、他はあまり、というよりほとんど印象に残っていない。

 

斎は教会に入ろうとして、やめた。

心から信仰していないのに、見せかけだけ入ったとしても、不快になるだけだ。

踵を返す。

「あの、はいられないんですか?」

綺麗な声が耳に入って、反射で足をとめた。首だけ振り返ると、そこには修導女と思われる白い装束に身を包んだ女性がいた。

像と、そっくりだった。
 

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